ハイトーンボイスの道 5 ストレッチ

ボイストレーニングコラム

 

ストレッチは自分の身体との、対話開始の挨拶

 ここまで書いてきた呼吸、姿勢などを整えるにあたり、欠かせないことがあります。
 ストレッチと脱力です。
 どちらも、身体を自由に使うためには必要な行程です。

 ストレッチはできるだけ、個々の関節や筋肉を意識して行います。自分の身体の確認と対話のために「この筋肉が動いてる?」「この関節が曲がってる?」と確認しながら行います。
脚や腰回りと併せて、首周りを入念にしましょう。

首?背中?腰?の話

 ヒトは脊椎動物だというのを聞いたことは無いでしょうか?
 脊椎って何?というと、首から腰の仙骨まで通る、背骨のことですよね。より正確に言うと、その全体は背骨等という言い方をしますが、それを構成する一つ一つの骨のことです。

 当然人間にとって重要な一揃いの骨たちなのですが、あまりに全体が長いのでその部分部分を分けて、上から首の骨、背骨、腰骨などと呼んだりします。

 首の骨が痛いとか、重いものを持ったら腰の骨を痛めた、とか背骨が痛い、とか、通常の生活の中では(あるいは文化的には)分けて捉えられることが多いかと思います。

 ただ、歌を歌う上では、首、背中、腰と分けずに、1本に連なった”軸”として捉えることが重要です。それも固く固定された軸ではなく、自由に、しなやかに”踊るように動く”身体の軸だと捉えてください。

 自分の身体には自由にしなやかに動く、そして強固でしっかりした軸を持っているとイメージしてみてください。更に、それはピンと伸びた棒ではなく、弓のように緩やかに湾曲したイメージです。

 生活の中では、どうしても首や背中、腰と部位を分けて考えてしまいますが、歌を歌う上では『しっかりとしたお腹』と『自由な喉』、『豊かに動く顔』をつなぐ1本の線として捉えて、それぞれを連携して使うイメージを持ってください。

ボイトレを続けると腰痛が減る?

 余談ですが、ボイトレを続けると『腰痛が減った』という方がいます。
 これは嘘でもなんでもなく、ちゃんと理由があります。

 私は、自分の身体の『認識』と自分の身体への『意識』の向け方の問題だと思っています。

 まず自分の身体への『意識』の話から。
 通常の生活の中で、人はあまり自分の身体を意識して使っていません。どちらかというと、外部に意識をフォーカスして生きていますよね。スマホを持つ、操作する、とか、人の会話に耳を傾けるとか、オフィスで椅子に座ってパソコンを操作する、とか。

 その時に意識が向いているのはスマホでありパソコンであり他人であり、あまり自分の身体には意識が向いていません。なので、無理な姿勢を続けてスマホ首になったり、肩こりがひどくなったりしても、気が付かずにその無理を続けてしまいがちです。

 自分の身体と対話しながら使っていれば『ちょっと首を変なふうに曲げたままだぞ』とか、『腰が不自然に歪んだまま座ってて違和感があるぞ』とか早めに気がつけるはずです。

 次に自分の身体の『認識』の話です。
 脊椎を普段は、首、背中、腰と分けて捉えがちだと先ほど書きましたが、その捉え方が、自分の身体の動かし方を不自然にしてしまう原因にもなっています。

 『首』を回して横を向くのであれば、『肩から上だけの脊椎』を回すより、『背中全体の脊椎』を回して横を向いたほうが、各脊椎の負担がはるかに少なくなります。4つぐらいの骨で90°捻じ曲げるのを、10と15の骨で分けるのですから、各骨とそこを通る神経にかかる捻れが軽くなるのは当然です。

 数字でいうとこうです。

 あなたがオフィスで作業中、同僚が左から話しかけて来たのに対し、あなたが首だけを回して4つの骨で90°曲げると、各骨が22.5°ずつ回る必要があります。
 これに対し、上半身全体を使って同僚に向くように90°身体を捻った場合、およそ15の骨で90°横を向くことになり、各骨の回転はたった6℃で済みます。
 日常生活でこの積み重ねの差は、非常に大きいです。

 また、床にある重い荷物を持ち上げるときも、ただお辞儀のように上半身を曲げ、あなたが自分の『腰』だと思っている部分に力を入れて持ち上げた場合、およそ5個の脊椎で上半身と重い荷物を持ち上げるのですから、各骨に掛かる負担は相当なものです。

 これを『腰で持ち上げる』という認識を捨てて、『体全体で持ち上げる』という意識で行えば、上半身の重量も荷物の重量も20近い骨で分散して負担できるため、単純計算で負担が1/4になります。(単純計算過ぎますが…)

 文化的な積み重ねで、『首』とか『腰』という言葉を繰り返し聞くことによって、まるで呪詛のようにあたかもそういう稼働部位があるかのように認識してしまっています。
 そしてそれが、そのとおりに『首を回す』『腰を曲げる』という動作を生んでしまい、本来全体で動かすべき脊椎を『部分ごとに分けて』動かす癖がついてしまっているのです。

ボイトレを続けることによって起こる変化

 長くなりましたが…
 ボイトレを続けることによって、この『首』『腰』という呪い(笑)から解放されて、自分の身体と対話しながら脊椎全体を使えるようになってきます。

 そうすると、上で書いた通り、首を回すとか、重いものを持ち上げる時に一部に負担を掛けるような動かし方が減ります。

 結果、腰痛が減る方が多い!という事になります。

ストレッチの方法

 ではストレッチの方法を簡単に説明します。(そのうちHow To で詳しく解説したいと思います)

 一般的な全身のストレッチをしていただくことが理想だと思いますが、ボイトレで重点的に行いたいのはこんな感じです。

  • お腹周り(腹筋、背筋、横隔膜とその周辺)の筋肉の柔軟な動きを確認する
  • 脊椎全体を前後左右に緩やかに曲げ上半身全体の自由な動きとつながりを確認する
  • 首を前後左右に傾ける
    頭だけ → 首の付け根から → 上半身全体のように、徐々に大きく動かす
  • 肩と上半身を回して力を抜く
  • 唇を広げたり、しぼめたり
  • 顔の筋肉全体を広げたり動かしたり
  • 舌をぐっと前に伸ばしたり、丸めたり

 自分の身体が凝り固まってないか、どこまで稼働するかを意識しながら、10分から15分程度行ってみてください。

 ちなみに、日常+ACADEMYもそうですが、多くのボイトレの教室は、1時間レッスンの最初の15分は、生徒さんだけでストレッチをしていただくところが多いと思います。きっちりストレッチをして身体を温めつつ、自分の身体の動きを確認してからのほうが、ボイトレの効率は上がるんですよね。

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