ハイトーンボイス・ミックスボイスの道 6 ”社会的”身体の使い方?

ボイストレーニングコラム

 自分の身体を自由に使う、というのはどういうこと?
 という話を別の角度から言うと…

普段は社会的・文化的な生活に合わせて身体を使っている

 ほとんどの方は『普段から自分の身体は自分で自由に使っているよ!』と思われると思います。拘束されていたり、骨折してギブスを着けたりしていない限り、自分の身体は自分で自由に使っていると感じますよね。

 でも、視点を変えてそこを見直してほしいのです。

 自由に使っていると思っている自分の身体は、実は多くの場合『文化的』あるいは『社会的』な”しばり”や”慣習”に従って使っていたりします

 すぐ身近にあるものとしては椅子の高さ、デスクの高さ肘掛けなど、本来自分の身体にピッタリな寸法のものを使いたいところですが、製品には規格があるため、例えばオフィスのデスクは70cmだったり、立って使う机は80cmだったりという『規格に合わせて』使うように慣れています

 あるいは、深くお辞儀をするときは『腰』の部分を90°曲げて、なんて言ったりしますが、『お辞儀』という社会的動作をするために、本来であれば身体を曲げるときは脊椎全体を使い、更に大腿骨→股関節→膝と下半身でバランスを取りながら行うものを、いわゆる『腰』と言われる部分、脊椎の下の5個ぐらいを無理やり曲げて行っています。

 また首は自然なバランスで脊椎の上に乗っかっているのが理想ですが、スマホを見るときはいわゆる首の骨と言われる部分を折り曲げて、下を向いた状態で長時間使っていたりします。スマホ首、なんて言われますよね。

  歌ももちろん文化的、社会的なものなので、その時代その時代の流行り廃りがあったり、歌い方の癖、パフォーマンスの癖があったりします。例えばビジュアル系はこんなビブラートを掛ける、演歌はこんなこぶしを回す、絶叫するロックが流行る時代もあれば、脱力系、ダウナー系が流行る時代もあります。 
 これも、プロのパフォーマンスの真似をしているうちに、一つの癖として身についてしまう場合があります。変な癖でも、プロのアーティストに似ているともしかしたら周りからは(社会的には)歌が上手い、という評価を受けることもあります。これもまた、社会的な”しばり”と言えます。

 ボイストレーニングを行う上では、意識的にこうした社会的、文化的な身体の使い方と切り離して、人間が本来持つ身体を最大限に活かせる使い方、動かし方をする事により、それまでのカラオケなどでの歌唱とは全く別次元の発声ができるようになります。

癖を取る と 正しく使う の両面から

 ボイトレを始める前は、このように『社会的・文化的なしばり、慣習』と『歌い方の癖』が自分の身体をがんじがらめに拘束してる、という認識からスタートしましょう!

 イメージとしては下の図のような感じです!

 

 こうした癖や社会的な習慣を取り除くためには、何より『自由に動ける自分の身体を知ること』が大切です。それに加えて『正しい使い方』を学び、その正しい使い方に身体を慣れさせていくのは、近道になると思います。

 この時点では、Youtubeなどで見るいろいろな『歌唱テクニック』や『喉を締める・開ける』などの練習法は一旦忘れましょう!見ないようにしましょう!
 その理由ですが…

 Youtubeなどで見るボイトレ動画は、トレーニーが適切な段階で、その人に合った方法を学ぶ限りは有用な事が多いです。が、その人の段階、現状、癖などに合ってないトレーニングを行うことは、成長の足しにならないだけではなく、かえっておかしな癖をまた増やしてしまう弊害さえあります。

 また、日常+のようなボイトレ教室であれば、その生徒さんの状態を講師が観察して、本人が気づいていない変な癖が出ていないか、とか、力を抜くべき筋肉に緊張が無いかなど、客観的に観察して導いてくれますが、自分の身体とちゃんと会話できない状態で、動画を見ながら自分だけでトレーニングをしていると、間違った方向に進んでもそれに気がつくことが出来ず、変な癖がついたり、最悪喉を痛めたりしてしまいます。

 なので、まずは何より、自分についた癖を取り除き、自由な身体と対話できるようにすることが大切です。

ミックスボイスは獲得できる?

 癖をなくして自由な身体で発声をしましょう、というお話ですが、ハイトーンボイス講座なので、当然その正しい発声の先にハイトーンボイスが獲得できるか気になるでしょう。

 結論を言うと、この正しい発声が身につくことによって、美しいミックスボイスの歌声にたどり着くことが出来ます!多分!

 なぜちょっと曖昧かと言うと…

 ミックスボイスは呼吸法などのトレーニングで獲得するものか、というと、実はちょっと違います。
 そもそも話し言葉が普通にミックスボイスの人も結構いたりします。私もどちらかと言うとその傾向にあります。

 ではなぜ歌声として発声する時にミックスボイスを使えない人が多のか

 これは私の考えている仮説でしか無いのですが、理由は2つあると思います。
 ひとつは、日常生活で大声を出す場面というのは、あくまで周りに強く聞こえるように発声するケースが多いため、自然に地声で発声する習慣がついているのではないか、ということ。

 どういうことかと言うと、例えばスポーツの応援だったり、人に危険を知らせるときだったり、そんなときは周りに強く伝わりやすい地声を出しますよね。『かっとばせー!』とか『危ない!気を付けて!』とか。

 試しに、スポーツの応援をしている気分で『がんばれー』と言ってみてください。言うフリでも大丈夫です。どうですか?発声しようと構えたその時から、自然に喉に力を入れていませんか?がっちり喉に力を入れて、絞り込んで大声を出そうとしていませんか?

 おそらく、多くの方にとって『大声=喉を絞って張り上げる』という癖が出来ているのでは無いかと思います。なので、この癖を取って上げる必要があります。

 もう一つは、『お腹から声を出す』イメージに対する勘違いからきているのでは無いかと思っています。お腹から声を出しましょう!という言葉も、やはり身体に力を入れて声を張り上げるイメージが強くあります。先程のようなスポーツの応援の場面でも『お腹から声を出せ!』とハッパを掛けられることもあるでしょう。

 いずれにしても、大きな声を出す、お腹から声を出す、というのがほとんど『喉を締めて力む』習慣になっているのではないでしょうか。ここのイメージを変えない限り、歌を歌うときにも大きな声になると自然に力む癖が残り続け、結果ミックスボイスでの歌唱が出来ない状態になるのだと思います。

 まずは、いろいろな癖を取り除く。喉にとって自然な状態を把握する。お腹から適切な空気を出し、自然な状態の声帯が音を出す。

 そこまでトレーニングが進めば、ミックスボイスでの高音をしっかり出せるようになってきます。

参考

 音楽家なら誰でも知っておきたい「からだ」のこと

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