ハイトーンボイスの道 2 筋肉を意識して動かす

ボイストレーニングコラム

実際に通ってハイトーンボイスを手に入れた!
みなさんと同じ目線の、そんな生徒が学んだことを整理してお伝えします!

顔の筋肉

使ってない顔の筋肉について

 歌と顔の筋肉の関係について、みなさんどのように思われてますか?
 顎や舌を動かすのは、なんとなくわかると思いますが、実は表情筋や唇の周りの口輪筋などが、実は結構重要だったりします。

 私自身、このボイトレに通って岩倉先生に習うまで、全く考えたこともありませんでした。顔の筋肉が歌のために必要で、しかもハイトーンで歌うときほどしっかり使わないとならない、という認識は全然ありませんでしたね。

 実際には相当使います!一生懸命使います!
 それも、強い音を大きく出すときだけでなく、優しい音を出すときも相当使います。イメージとしては喉に全然力を入れてない状態で、その脱力した喉を挟んで、お腹と顔筋が頑張ってるような感じです。

 ここでは、ハイトーンボイスと顔筋の関係について解説したいと思います。
 特にここでは、普段あまり意識していない口輪筋や表情筋について重点的に解説していきたいと思います!

口輪筋、表情筋

 歌を歌う上で意識して頂きたい代表的な筋肉は、口輪筋と表情筋です。
 口輪筋は wikipedia で見るとこんな感じです。口の周り囲む、唇を動かしている筋肉です。
 表情筋は顔の様々な筋肉の総称(俗称?)ですが、具体的にはこのあたり(大頬骨筋小頬骨筋上唇挙筋笑筋)でしょうか。

口輪筋
Henry Vandyke Carter – Henry Gray (1918年) Anatomy of the Human Body (See “ブック” section below)Bartleby.com: Gray’s Anatomy, Plate 381, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=528957による

 なぜハイトーンボイスで歌う時にここを意識して頂きたいか、それもボイストレーニングを始めるにあたって重要なのか。それはズバリ、喉に力を入れる癖、ひいては喉を潰してしまうような張り上げや変なガナリの癖を取り除くために重要な筋肉だからです。

 響きをコントロールしたり、発音をきれいに豊かにするためにも重要な筋肉ですが、トレーニングし始めにおいては、喉についてしまった変な癖を取り除くためにこの筋肉を意識して使うトレーニングは役立ちます。
 

 では具体的にどの様なトレーニングをするか。まずイメージをお伝えすると、口輪筋は唇をしっかりと『輪』として意識してすぼめたり、広げたりします。昔のアニメーションでトランペットを吹く時に音の出口(ベル)が大きく開いたり絞られたりするようなものを見たこと無いでしょうか?古いですか…??

 あんな感じで、しっかりと開いたり、絞ったりするように動かします。実際唇は音の出口として重要ですので、しっかりと力強くコントロールできるようになることは良い発声をする上で欠かせません。

 ボイストレーニング初期は、歌う時にどのように使うかはさておき、まずはしっかりと自分が意識したとおりに動かせるように頑張ってみましょう。試しに動かしてみてください。例えば、上唇を思いっきり上に上げ、上唇がめくれて前歯が出るように意識して大きく動かして、鏡を見てみてください。

 おそらく自分で想像したほど、前歯が見えていないと思います。殆どの方はこの筋肉を使っているようで、実はあまり使っていない、つまり筋力がついていないんです。

 例えば King Gnu の「三文小説」のPV ( 0:48頃~)を見てみてください。
 

 井口理さんのファルセットですが、優しい発声に対して思った以上に大きく唇を動かしているのがわかると思います。優しい発声だからといって、口元を動かさずに歌っているわけではなく、これだけ激しくしっかり動かす必要があるのです。

 大きく動かすためには当然筋肉が必要になりますし、また、それこそプロの歌手になると、コンサートなどで2時間とか歌い続けるわけですから、途中でバテないようにかなりしっかりとした筋肉をつける必要が出てくるのです。

 そして、ハイトーンボイスを出すにあたっては、やはり特にしっかりと動かせるようにしておく必要があります。高い音を出す時に喉に力を入れられない代わりに、『唇でコントロールする』、イメージで言うと『唇で頑張る』必要があるからです。

表情筋

 そして、口輪筋と併せて重要なのが表情筋(郡)です。もうちょっとわかりやすいイメージで言うと、頬と上唇を上げる筋肉たちです。表情筋と言うと、顔の表面を動かすためと思いますが、口腔内の奥、鼻とつながる空洞をコントロールするためにも重要です。

 ここはどうやって鍛えるかと言うと、強めに意識して頬を挙げながら上唇を上げたりします。試しに鏡に向かってぐっと頬を上げて上唇を上げてみてください。どうでしょう、自分が思っていたような形に、思っていたような高さに上がっているでしょうか。やはり、実は自分が思ったように動いていない方が多いのではないでしょうか。

『動かせない』を『動かせる』ように。自分の身体との会話 の話

 顔の筋肉を動かそうとするだけなのに、なぜ自分の思い描いたとおりに動かせないのでしょうか。
 ひいては、歌を歌う、という子供の頃から親しんできた行動のはずなのに、なぜ自分の思い通りに歌えないのでしょうか。これはとても不思議です。

 私は学生の頃からバンドに参加して、主にベースを担当していたのですが、恥ずかしながらその頃は『ボーカルってただ歌うだけで練習とかしなくていいから楽だよね~』とか思っていました。本当に、何も知らないというのは恐ろしいものです。

 楽器などの道具も使わず、ただ自分の身体で、自分の声で歌うだけなので、大した練習もいらないものだと考えていたのです。が、ボイストレーニングを始めて思い知らさらされたのは、自分の身体を思い通りに使うことほど難しいことは無い!ということでした。

 その難しさを、自分の身体との対話、という視点で話してみたいと思います。

 まず、例えば『口輪筋を大きく広げて』といわれて、しっかり口の周りの筋肉を広げるためには、こんな過程が必要です。

  • で作ったイメージが命令として、神経を通じて肉に伝達される
  • その命令を受け取った筋肉が、命令通りに『大きく』『しっかりと』動く
  • 筋肉の動きが神経を通じてに戻り思い通りに動いているか確認する

 まず最初の、神経を通じて筋肉に命令を伝えるところですが、ここにも『慣れ』や『訓練』が必要です。手の指の薬指だけ動かそうとしたら隣の指も動いてしまったり、小指を動かそうとしたら薬指も動いてしまったりするのは、そもそも『薬指だけ動かす』『小指だけ動かす』という動作が日常生活に殆ど無いため、多くの人は別々に動かす命令のしかたや、その伝え方に慣れてないから、といわれています。

 でもピアノなどの楽器を弾く人は、個々の指を動かく訓練を積んでいるので、各々の指を正確に動かせる方も多いと思われます。私は右利きでベースなどを弾いてきましたので、面白いことに指板を押さえる左手のほうが、右手に比べて自由に個々の指を動かせます。個々の筋肉を正確に動作させる命令も、その伝達にも、慣れが必要だというのがわかるかと思います。

 次にそれを命令として受け取った筋肉の動きです。
 正確に動作することと、その動作に必要な筋肉の力が必要になりますが、一般的には顔の筋肉が弱い方が多いので、口輪筋をしっかり歯の上まで広げられない、頬を思ったほど上げられない、ということが起こります。これはひたすら筋トレしかありません。顔筋肉を筋トレ、というと変な感じですが、実際意識して歌の練習をしたり、トレーニングをしたりしていると、徐々に大きく動かせるようになってきます。

 最後に、その動きを神経を通じて脳が確認する作業があります。これがなかなか難しいのです。先にお話した通り、自分では頭でイメージしたように筋肉が動いていると思ってるもんですから、なかなか『結果の誤り』に気がつくことが出来ません。頬は上がっているはず、口輪筋は開いているはず、と思い込んでしまいます。

 幸いなことに表情筋や口輪筋は、外から見ることが出来ます。なので、最初のうちは特に、鏡に向かって『目で確認する作業』が重要になってきます。
 自分の身体が、自分が思ったとおりに動かせているか、それをしっかり確認する必要があります。

 ボイストレーニングの難しい点の一つは、この『目で確認する』という作業が出来ない筋肉を結構使うところにあります。喉の筋肉、鼻腔を動かく筋肉、首の筋肉、横隔膜など、目で確認しづらい筋肉をたくさん正確に、必要な量だけ動かす必要があります。そのため、『自分の身体との対話』そのものに慣れる、訓練を積む必要があるのです。

 この点に気がつくまで、どうしても高音を出すための小手先のテクニックを追いがちになります。が、それではいつまで経っても目指すところにたどり着くことは出来ません。

頭は、筋肉の動かし方を理解し覚える
神経は、司令を正確に筋肉に伝え、フィードバックできるように慣れる
筋肉は、受け取った司令を正確に実現できるよう強く柔軟に鍛える

 こうして、自分の頭、神経、筋肉を三位一体で扱えるように、正確な姿勢と呼吸を意識して反復練習することが、結果的に近道になると思われます。

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